三島由紀夫の肉声テープ

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今朝の讀賣新聞一面に三島由紀夫の肉声テープが発見された記事が載ってました。LINEのニュースでも。




大田区大森に住まいを移して、馬込文士村との関わり合いから多種多様な作家の旧宅などを散策するうちに興味が湧いて作品を読むように♫




いま読んでいる『金閣寺』で印象的なシーンがあります。(抜粋すると…)


そのとき奥から、軍服の若い陸軍士官があらわれた。彼は礼儀正しく女の一二尺前に正坐して、女に対した。しばらく二人はじっと対坐していた。女が立上った。物静かに廊下の闇に消えた。ややあって、女が茶碗を捧げて、微風にその長い袂をゆらめかせて、還って来た。男の前に茶をすすめる。作法どおりに薄茶をすすめてから、もとのところに坐った。男が何か言っている。男はなかなか茶を喫しない。その時間が異様に長くて、異様に緊張しているのが感じられる。女は深くうなだれている。……

信じがたいことが起こったのはそのあとである。女は姿勢を正したまま、俄かに襟元をくつろげた。私の耳には固い帯裏から引き抜かれる絹の音がほとんどきこえた。白い胸があらわれた。私は息を呑んだ。女は白い豊かな乳房の片方を、あらわに自分の手で引き出した。

士官は深い暗い色の茶碗を捧げ持って、女の前へ膝行した。女は乳房を両手で揉むようにした。

私はそれを見たとは云わないが、暗い茶碗の内側に泡立っている鶯いろの茶の中へ、白いあたたかい乳がほとばしり、滴たりを残して納まるさま、静寂な茶のおもてがこの白い乳に濁って泡立つさまを、眼前に見るようにありありと感じたのである。男は茶碗をかかげ、そのふしぎな茶を飲み干した。女の白い胸もとは隠された。

私たち二人は、背筋を強ばらせてこれに見入った。あとから順を追って考えると、それは士官の子を孕んだ女と、出陣する士官との、別れの儀式であったかとも思われる。(以下続く)

読んでいてゾクッとしました。
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師匠で尊敬する川端康成の文章について『怖いようなジャンプをするんですよ。僕、ああいう文章書けないな、怖くて』などの発言からは自分の文学に悩む三島の姿が浮かび上がります。



『僕の文学の欠点っていうのは、あんまり小説の構成が劇的すぎること。僕は油絵的に文章みんな塗っちゃうんです。日本的な余白ってものが出来ない』




ノーベル文学賞の最終選考の対象候補となりながら…川端康成が先に受賞した事に焦りや口惜しさもあったのか。




『なるたけ自分で好きな言葉、それだけで花束を作りたい』




『人生や思想が(文学の)素材ではない。言葉がマテーリアル(素材)だと』




生き生きと語る三島さんの肉声テープを聴いてみたい。